映画「君の名は。」でキーポイントとなった「口かみ酒」主人公の男の子が、ヒロインの巫女さんがつくった口かみ酒を飲んでタイムスリップをするシーンで有名になりました。どんな味がするのか、作り方はどうするのか、販売しても良いかなど、「口かみ酒」について調べてみました。
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口かみ酒とは?
口かみ酒とは、米を噛んで唾液と混ざった状態で放置しておくだけで、発酵してアルコールになるという日本最古のお酒です。米などの穀物やイモ類、木の実などを口に入れて噛み、それを吐き出して溜めたものを放置して造るお酒のことです。
古代日本、アイヌ、沖縄、奄美諸島で作られていたほか、中南米やアフリカなど世界各地に見られたが、アマゾン低地などに残存する以外ほとんど消滅しました。真臘では女性が醸すことから「美人酒」と呼ばれていたそうです。また、人為的に造る酒の発祥は「口かみ酒」であるという説があります。
口かみ酒は、多くの地域において「処女が穀類を噛んで……」「神事として巫女さんが米を噛んで……」など、若い未婚の女性が「口噛み」をして造ったと伝わっています。映画「君の名は。」のヒロインも巫女として口かみ酒を造ってお供えをしていましたね。
「口かみ酒」はどんな味がするの?
「どぶろく」に近い味がするそうです。意外に酸味があって、まるでヨーグルトのようにどろっとしているそうです。
ただ、口かみ酒を処女がつくっていたということは、若い女性には健康な細菌が存在すると考えられていたからであり、実際には人間の口の中は雑菌がたくさん繁殖しているので、酵母以外の雑菌も発酵すると考えられます。原材料によって味も異なるでしょうが、口内雑菌の発酵により、排泄物のようなにおいがするものもあるようです。
「口かみ酒」の作り方は?
デンプンを持つ食物を口に入れて噛むことで、唾液中のアミラーゼがデンプンを糖化させます。それを吐き出して溜めておくと、野生酵母が糖を発酵してアルコールを生成し「口かみ酒」が完成します。
東京農業大学教授の小泉武夫さんによる実験「考古学ー口噛み酒はできるのか?」によると、『10日間醗酵させたら、アルコールド9パーセントの酒ができた。酸度は9.8とかなり酸味の強い酒であった。これは、乳酸菌醗酵による乳酸のためである。この、実験でできた口噛み酒のアルコール度は9パーセント、酸度は9.8ミリリットル、糖度5パーセントの、甘口の酒にヨーグルトを混ぜたような味の酒であった。
方法 蒸した米を4分間ゆっくり噛んで容器に吐きため、そのまま容器を保存する。3日目までは甘い香り、4日目ころから、醗酵開始、酸臭もする。5日目旺盛に醗酵、酸臭も強くなる。ガスを発生して膨れる。その後落ち着いて醗酵を続ける。』と書かれています。
原料を生のまま口に入れて噛む製法の他には、原料を煮炊きして糖化しやすくしたり、原料を酸敗させた後で口に入れて噛む製法があるそうです。この製法は、台湾の高砂族で用いられていました。また、原料を酸敗させることで乳酸による酸性下での発酵となるため、雑菌の繁殖を抑えることができます。これはラテンアメリカのチチャ(の祖先)などの製法です。
溜めたものに水を加えて発酵を促進させる場合もあり、これは中国系醸造酒の影響を受けたものです。
「口かみ酒」商品化の場合の法律上の問題点は?
「口かみの酒」は販売されていません。酒造免許のない人が、アルコール度数が1%を超えるものを自宅で作ったり販売したりすると「酒税法違反」にあたり、刑罰の対象になります。アルコール度数が1%未満のものを個人でつくって楽しむぶんには問題はないそうです。
たとえ酒造免許のある人でも、「口かみ酒」を衛生的につくるには、口内の雑菌がゼロの状態で作らなければならないので、現実的に不可能でしょう。保健衛生上好ましくないものは販売許可がおりません。
「口かみ酒」は「お供え物」
現在でも、神社でお供え物として巫女に「口かみ酒」をつくらせることはあるようですが、あくまでも形式的なもので、人が口にする機会はないそうです。世界中で古来からつくられてきた伝統的なお酒ですが、衛生面を考えると、とても口にすべきではないと思います。
あくまでも個人的趣味で作って自分で楽しむのならば問題はないでしょうが、他人にすすめたりすることは控えましょう。体内炎症の代表ともいえる歯周病の原因にもなりかねませんし、下痢など消化器に不具合がおこる可能性も考えられます。どんな問題がおこるかは分かりません。自己責任のおえる範疇で行ってください。
雰囲気を味わいたいのであれば、甘酒やどぶろくといった安全で衛生面での問題がないもので代用すべきです。伝統的な手法というとオーガニックなイメージが先行して安全なイメージがありますが、「口かみ酒」をつくりたい方は、くれぐれも注意をしたうえで、個人的に楽しむようにしてください。
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